そこは僕たちの行きつけのお気に入りの場所
仕事帰り地下に続く階段を下り　重い木の扉を開けると
まるでそこはタイムトンネルを抜け出た異次元空間
薄暗い照明　洒落たテーブル　カクテルグラスを傾け
カウンターにふたり並んで他愛のない会話

「仕事はどう？最近疲れてない？」
「相変わらずさ　君はどう？」

そんなやりとりの中で時間はゆったりと流れる
気の利いたジャズナンバー　煙草の煙　回転扇のシーリング
そしてカウンター越しに聞こえるシェイカーの響き
口ひげのマスターはいつも優しく微笑みを浮かべ
ただ黙って客の話に耳を傾けている

ここには何の躊躇いも迷いもない　心が和む穏やかな場所
真実の自分を曝け出し　いにしえの時を存分に楽しむ空間
７０年代の影を落とす西洋アンティークのディスプレイ
そしてすべてがモノクローム世界

僕たちはそこで何時間も至福の時を過ごした
そしてお互いの夢を語り合い　幾つものドラマを作った

やがて閉店を知らせるラストナンバー
AM４:００　夜がうっすらと明け行く東の空
もうすぐ始発が動き出す時間
アスファルトに靴音が木霊する都会の朝
そんな週末のふたりの物語
　